高等学校卒業と自立に向けたトータルサポート 通信制課程

不登校について
不登校になった
子どもの気持ち

以前、東林館高校主催で開催された「不登校セミナー(不登校だった自分を振り返って、今話せること)」で、東林館高校の卒業生二人がパネリストとして登壇してくれました。二人は10年近く前に東林館高校を卒業して、今は社会人として責任を負う立場で働いています。

二人の言葉から、「不登校の気持ち」を感じて頂き、親や先生に対して子どもたちがどのような関わりを求めているのかということについても考えて頂けたらと思います。

「学校を休んでいた時の
気持ちについて教えてください」

Aさん「学校を休むことを悪い事だと感じていました」
「けれども、どうすることもできないので逃げることしかできませんでした」

Bさん「世界がすごく狭く感じていました」
「誰も自分のことを分かってくれないと思っていました」
そして、そう遠くない未来に自分は自殺するんだろうなと思っていました」

二人の言葉から、「不登校」というのは想像以上に本人たちの心を追い詰めていることが想像できます。子どもたちにとって「学校」という存在はとても大きいものです。一般的に当たり前のように学校に通い、当たり前のように自分の居場所があり、当たり前のように一日を過ごすような気がしますが、もしもその学校に行くことができなくなった時、子どもの心にとてつもない不安や恐怖が押し寄せてくることは不思議ではないのかもしれません。

Aさんの言葉からは、学校に行くことができないという罪悪感を持ちながら、それでもどうにもままならない様子が伝わってきます。Bさんの言葉からは孤独の中で未来に対する希望は失われて、いずれ自分自身もいなくなってしまうのではないかという人として根源的な不安が強く伝わってきます。

また、他の卒業生の一人が学校に行くことができない時期を「どこまでも続く真っ暗闇にぽつんと一人でいる感覚」と表現していました。この言葉からも底知れない不安と孤独を読み取ることができると思います。

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「不登校の時の親との
関係について教えてください」

Aさん「学校生活については話していませんでした」

Bさん「両親ともすごくショックを受けていました」
「親に言っても分かってくれないと思っていましたし、親も僕が言わないから分からなかったと思います」

子どもたちというのは保護者の瞳を常に観察しています。「お母さんは今どんな状態なんだろう?」ということと、「お母さんは自分のことをどんなふうに見ているんだろう?」ということをお母さんの瞳から読み取っています。

「不登校」になったときに本人のみならず、保護者の方の心も混乱するのは当たり前のことです。本当の意味で我が子の「不登校」を受け入れていくためには時間がかかるものだと思います。そして、そのような保護者の混乱を子どもたちはしっかりと感じ取っています。「ショックを受けて動揺しているお母さん」「自分が学校に行かれないことを肯定的には受け入れられないお母さん」「自分のことを情けないと思っているお母さん」など、子どもたちは想像以上に敏感に読み取っています。

ですので、AさんBさんともに「親に話してはいませんでした」という言葉は「不登校」をしている子どもたちの多くに共通するものではないかと感じます。

子どもたちが保護者の方に自分の言葉で語ることができるのは、保護者の方の気持ちにゆとりがあり、そして常に支持的で肯定的に自分の言葉を受け入れてくれるという安心感があって初めて可能になるのではないかと思います。

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「東林館高校ではどのように
過ごしていましたか?」

Aさん「特に1年目は外に出ることがとても怖かったこともあり、週1~2回のペースで登校していました」
「様々な行事が組まれており、1年目の冬に勇気を出してスキー合宿に参加し、Bさんと仲良くなり、そこから学校に行くのが楽しくなり、徐々に交友関係も広くなっていきました」

Bさん「通信制の高校なので、最初は登校するイメージは持っていなかったのですが、先生方が自分を受け入れてくれているという実感が持てて居心地が良く、結局毎日のように登校していました」
「色々な行事が組まれていて、出会いや気づきがたくさんあり、結果的にすごく成長できたのではないかと思います」

AさんとBさんは同じ時期に東林館高校に入りました。そしてその年の冬に行われたスキー合宿で出会ったのがきっかけでそれから十数年親友関係を続けています。

二人はお互いに不安を持ちながら、東林館という新しい環境に入ってきました。私たち東林館の職員が常に意識していることに「二者関係」を作っていくということがあります。毎週行なわれる担任との面談時間を通してゆっくりと「二者関係」を構築していきます。出会った時から様々な話をする生徒は少なく、多くの生徒は学校や先生という対象に対して身構えているというのが現実です。職員は決して侵入的になり過ぎることなく、生徒のペースを尊重して面談を行なっていきます。面談と言っても決してカウンセリングのようなものではなく、日常の話や趣味のことなど生徒が話しやすいテーマで話をしていきます。もちろん、学校生活についても話を聞かせてもらいますが、それ以上に生徒の興味のあることなどに対してこちらも一生懸命耳を傾けます。そうした時間を一貫して持ち続けながら、徐々に生徒との「二者関係」が築かれていき、話題も広がっていったり、自分の気持ちをふと語り始めたりということが起こってきます。

同時に学校に対して安心感が芽生え始め気持ちにもゆとりが出てくると、同年代の生徒たちとの交流も始まっていきます。最初は勇気のいることですが、そこでも担任はじめ東林館の職員が一緒に参加して交流をしていきます。

子どもたちにとって友達の存在というのは非常に大きいもので、友達ができることによって学校生活が楽しくなったり、気持ちにもどんどんとゆとりと活気が出てくるものです。

AさんとBさんも勇気を出して参加したスキー合宿で出会い、それから二人とも学校生活に楽しさを覚えて最終的にはお互いに毎日登校するようになっています。もちろん、学校生活では人間関係をはじめいろいろと大変なことも経験しますが、そんな時でもお互いに相談して支え合いながらくぐり抜けていっていた姿を思い出します。

東林館高校は「学校という場で傷ついた子どもたちがもう一度学校という場で人間関係を通して癒されながら元気になってもらいたい」という思いで創られた学校です。二人のお話を聞かせてもらいながら、この学校で働く意味を改めて実感させてもらいました。

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「今、不登校で悩んでいる子どもたちに
どんなアドバイスをしてあげたいですか?」

Aさん「今は本当に苦しいと思います。でも『不登校』は人生のうちのわずか何年かなので、今は休みたいだけ休んだらいいと思います。休んで休んで休み飽きた時に、自分がどうしたいのか考えてみるといいかもしれないです」

Bさん「今は何も考えられない状態かもしれませんが、でも自分を受け入れてくれる人と場所は必ずあるので、今は自分のペースを受け入れて一つずつできることが増えていけばいいと思います」

二人の言葉はとても勇気づけられるものではないかと思います。実際に「不登校」で苦しんで、そして乗り越えてきた人だからこそ言える言葉だと思います。

Aさんの「休んで休んで休み飽きた時に…」という言葉から思い浮かぶのが、「子どもの心というのは癒されて再び充電されてくると自然と意識が外へ向いていく」というものです。保護者の方や先生としては子どもを信じてそこまで待つことができるかということがとても大切になってくるのだと思います。

また、Bさんの「今は自分のペースを受け入れて」という言葉も東林館高校で職員が常に意識している考え方そのものです。心のエネルギーが満たされていない状態で「あるべき姿」を追い求めたとしても、いずれ心身ともに疲弊してしまいます。

保護者の方としても子どもの今あるがままの姿を肯定的に受け止めていくことが大切になってきます。例えば「不登校」を経験した子どもの中でご飯が食べられなくなりいわゆる「摂食障害」に陥るケースがあります。ご飯が食べられず、やせ細った体で病院のベットで過ごす我が子の姿を見て「学校に行ってほしい」と思う親はいないと思います。「生きていてほしい」という切実な思いでいっぱいになるのではないのでしょうか。

ですので、「不登校」をしている我が子が例えば「今日も朝起きてきた」とか「ご飯をおいしく食べた」とか、「テレビを見て一緒に笑った」とか、そのような当たり前のことに喜びを感じて評価してあげることが大切なのではないかと感じています。

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「不登校を経験したことが、
今の自分や家族との関係に
どのように活きていますか?」

Aさん「不登校の経験がなければ、今の自分はありません。不登校の経験があったからこそ色々なことを考えました。人生を豊かにしてくれたのかもしれません」

Bさん「苦しい時期を自分も家族も過ごしましたが、だからこそいろんな人に出会えて自分は親と一緒に成長できました。親も何が正解か分からず、探り探りだったと思いますが、諦めずずっと味方でいてくれたことで、今は誰よりも信頼できる存在になっています」

二人の言葉はまさに「不登校から得た恵み」と言えるのではないかと思います。「不登校」は本人たちにとってしんどい体験であることは言うまでもありませんが、保護者の方も同じように焦り、苦しむ時間だと思います。そして、一緒に悩んだり、ぶつかったり、途方にくれたりしながら、やがて「親子関係の再構築」を行なっていくご家庭がたくさんあります。ですので東林館では生徒自身が癒され、徐々に自分のペースで動けるようになり、さらには様々な人間関係を通じて最終的には自立的に考え行動できるようにサポートしていくことは当然ですが、同様に保護者の方との懇談や勉強会なども大切にしています。保護者の方のお気持ちを聞かせて頂きながら、本人に対してどのような関わり方や見守り方が必要になってくるかということを常に一緒に考えさせて頂きます。

思春期の子どもたちの心は「自立」と「依存」の状態を行ったり来たりしています。問題なく学校生活や友達関係をやっていってるな、と感じるような子どもでもふと親に甘えてみたくなる瞬間が訪れることはよくあることです。ですので「不登校」という状態になった子どもたちの心のあり様が、より「依存」の方向に大きく揺れ動くことは想像しやすいことだと思います。

しかしながら、子どもが本当に自分の言葉で「不登校」について語ることができるのは、親が常に肯定的で、支持的に自分の言葉を受け止めてくれるという確信があってのことだと思います。保護者の方もご自身の不安な気持ちからなかなか我が子の「不登校」を受け入れがたい状況の中で、お互いに衝突したり、激怒したり、相手に対して諦めたり、ということが繰り返されることはよくあることです。そうして、そういった体験を繰り返しながら、ゆくゆくは「親子関係の再構築」がなされていくのだと思います。

当時、二人の担任をさせて頂いた私としては、保護者の方のご苦労もよくよく聞かせて頂きましたし、今、彼らが保護者の方を心から尊敬していることも知っています。そして、「不登校から得た恵み」をきちんと感じることのできる二人にはこれからも希望と誇りを持って歩んでもらいたいと思っています。

東林館高等学校 教頭 田村知史

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